【本日の一冊】


イアン・エアーズ山形 浩生訳「その数学が戦略を決める」 P131

インターネットと呼ばれる情報データベースは、すでに診断に奇妙な影響を与えつつある。
(中略)
ついに教授は、その研修医に診断を尋ねた。そして彼女は、診断を下しましたと述べ、症状に見事にあてはまる珍しいIPEXという症候群を報告した。どうやってその診断に達したのか尋ねられると、彼女はこう答えた。
「主要な特徴をグーグルに入れたら、すぐに出てきましたよ」




【感想】


本日紹介するのは、従来の常識では考えられなかった分析手法で、私たちの生活を一変させる「絶対計算」の威力を紹介した一冊です。

表紙をめくるとまず飛び込んでくるのが、『「絶対計算」は、専門家を圧倒する』との文字。
著者は、コンピュータの進歩やインターネットの発達、データベースの機能強化により、大量のデータ収集が可能になった現在、
「絶対計算」の前では、専門家の勘や経験は太刀打ちできない、と断言しています。


折りしも昨日付けでこんなニュースが報じられました。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080218-00000022-inet-inet
みずほ銀行、個人部門の EBM システムに Teradata を採用(japan.internet.com) - Yahoo!ニュース

企業向けデータウェアハウスの米国 Teradata 日本法人、日本テラデータは2008年2月18日、みずほ銀行の個人部門で、EBM(Event Based Marketing:イベント主導型マーケティング)システムとして、Teradata CRM と Teradata DB が採用された、と発表した。

Teradata DB は並列処理による大規模データ処理用データウェアハウス基盤、また、Teradata CRM では顧客イベントを理解するルールをセットアップできる。

EBM はマーケティング手法のひとつで、顧客行動の変化をイベントとして DB に蓄積、ルールに基づいて継続的に観察した結果をもとに、顧客に適切にコンタクトできる、というもの。

しかしながら、このシステムには、膨大なデータの蓄積と、それに対して複雑な自動判定処理を行うための、大容量データの高速検索能力が必要となる。

欧米の金融機関では2000年頃から採用されているが、国内金融業界での採用は初めて、とのこと。1月12日から本格稼働を開始した。


http://www.nikkei.co.jp/news/main/20080218AT2C1200L17022008.html
みずほ銀、個人データ分析し最適な商品紹介

 みずほ銀行は顧客のデータベースを分析し、結婚や退職など生活の変化に合わせて最適な金融商品を提案する営業手法を導入する。勘と経験に頼る従来のやり方を改め、データに基づく効率的な仕組みに切り替える。みずほグループの大きな課題となっている個人向け金融の強化につなげたい考えだ。

 こうした手法は欧米の金融機関で広く活用されているが、日本の大手銀行が本格的に取り組むのは初めてという。みずほ銀は米大手銀行に担当者を派遣してノウハウを吸収した。


これは、まさに本書に出てくる事例のようなニュースです。(「Teradata」は本書の第一章にも紹介されている、アメリカの企業)

例えば、苗字が変わった、だとか頻繁に利用しているATMの場所が変わった、などのデータから、結婚や引越しといったイベントが発生した、という分析が可能となります。
そんな顧客を狙い撃ちした金融商品の提案を可能にしてくれるのが、「絶対計算」なのです。
記事にも言及されていますが、これまではおそらく「専門家」による「勘と経験」に頼っていたものと思われますが、それがついに「絶対計算」に取って代わられた、ということなのですね。


本書の第7章では、教育の分野での例が取り上げられています。
今アメリカで「ダイレクト・インストラクション(D・I)」と呼ばれる非常に効率のよく、しかも効果が絶大な教育法が話題になっています。
(映画『華氏911』でブッシュ大統領が授業参観するシーンがありますが、その教室で行われていた教育法がこの「D・I」なんだとか。)

P218
「試験が終わってみると、D・Iの生徒たちは読み、書き、算数、言語ですべて一位になった。他のどんな(教育)モデルも足元にも及ばなかった」。


様々なデータと絶対計算から生まれたそんな夢の様な教育法「ダイレクト・インストラクション」ですが、大きな問題を抱えています。
それは、授業の進め方が完全にマニュアル化されている、ということ。
つまり教師たちが、自分の意向を授業に持ち込むことができない、ということで、専門家たちから猛反発を食らっています。
しかし様々なデータから、D・Iの有効性は絶大的な効果を上げているといわれています。


もし自分が教師だったら・・・と思うとかなり複雑な気分ですね。
上のニュース同様、絶対計算が専門家をただの労働者にしてしまう可能性があるわけです。

技術革新は新しい仕事を生む一方で、従来の仕事を消し去る可能性を秘めていますね。
でも人類の歴史を見れば、それは避けられない傾向なのかもしれません。

いちおう私も「エンジニア」という専門家に入るのかな?
そのうち私の仕事もなくなってしまうのかもしれません。少々危機感を持たされた一冊でした。
何か自分自身に付加価値をつけなければいけませんね。


本書では、ワインの評価や野球のスカウティングという趣味の世界から、医療・政策という現実的な問題における「絶対計算」の成果と、それに反発する専門家たち、
さらには、「絶対計算」がもたらす弊害や今後の展望が、面白おかしく描かれています

300ページほどのボリューム感たっぷりの本ですが、かなり面白い!一冊です。


【速読のポイント】


各章の最後に掲載されているまとめを先に読んでおくといいでしょう。
その後で、訳者の解説も先に目を通しておけば、本書の概要はがっちり押さえられます。

序章で著者が述べているように、最初の5章は、絶対計算が近年台頭してきた例が目白押しです。

一つ一つの例はとても面白く、読んでいても飽きないのですが、大雑把に言えば「専門家と絶対計算家の対決例」とくくれてしまいます。
興味ある分野に絞って読んでみてもいいかもしれません。


【こんな人に】


・専門家を自認する人
・専門家を特別な存在だと思っている人
・専門家がやりこめられるのを面白いと感じる人


【関連書籍】



本書でも何度か言及されているこちらの本も、なかなか読み応えのある一冊です。

ヤバい経済学 [増補改訂版]


【著者紹介】


イアン・エアーズ
エール大学教授
様々な問題について、データを収集、絶対計算、分析によって政策や裁判に影響を与える「絶対計算家」として知られる。
9冊目の執筆である本書が、初めての邦訳。

山形 浩生(やまがた ひろお)
マサチューセッツ工科大学不動産センター修士課程終了。
大手調査会社に勤務のかたわら、広範な分野での翻訳と執筆活動を行う。
主な訳書
環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態
クルーグマン教授の経済入門


【目次】


絶対計算者たちの台頭
第1章『あなたに変わって考えてくれるのは?』
第2章『コイン投げで独自データを作ろう』
第3章『確率に頼る政府』
第4章『医師は「根拠に基づく医療」にどう対応すべきか』
第5章『専門家vs.絶対計算』
第6章『なぜいま絶対計算の波が起こっているのか?』
第7章『それってこわくない?』
第8章『直感と専門性の未来』



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